March 27, 1959 Carlos Montoya Concert at Sankei Hall

1959年3月27日 力ルロス・モントヤ演奏会 産経ホール


[*左より]:伊藤日出夫・勝田保世・永田文雄・芦原英了・高橋武子(高橋功夫人)・カルロス・モントーヤ・伊藤トリオの方・伊藤マリ子

[*挿画]:digitalguitararchive/1959-06-02-Armonia/P.29
1959年(昭和34年)3月27日 東京産経ホール

モントヤ師匠のリサイタル       伊藤日出夫( 東京)

3月25日モントヤ師匠が来日した。25日のレセプション、又翌26日の歓迎会(ギター連盟と中日新聞のレセプション)の後、いよいよ27日に、産経ホールで世界最高と云われる力ルロス・モントヤ師匠のリサイタルが開かれた。
写真よりずっと若く見えるモントヤ師匠がステージに現われると、大変な拍手である。
と云うのも、この頃のフラメンコ熱が相当なものであると云うことと、世界最高と云われるモントヤ師匠自身の魅力によるものであろう。
曲目は、一部としてラ・ローサ、ファンダンギリヨ、グワヒーラス、タランタス、ティエントス、セギリージャ・ヒターナ、べルディアーレス、プレリアス、そして夫人であるトリアニータさんの舞踊が、サパテアードとプレリアスであった。 2部として、アレグリアス、サムブラ、サエタ、タンギリョ、グラナディナス、ファルッカ、ホタ、そして又夫人の舞踊がファルッカとセビリアーナスの二つ、アンコールとして、古賀政男作曲の古いなつかしい「酒は涙か溜息か」左手のみのスケール、そしてサムブリージャが奏された。
この日の演奏は、全体として非常に1曲1曲が短かかった。
サエタにしても、レコードのものはもっと長いし、あらゆる曲ももっと情熱的で盛り上がりが見事なのであるが、この日の演奏は少し気が乗って居なかった様である。
と云うのも、我々聴衆が余りにもフラメンコを聞くに慣れて居らず、クラシック音楽を聞く様にかしこまって居たからであろう。

元来フラメンコはギター、唄、踊りの三拍子に合わせて聴衆が一つの要素となって居り、聴衆が雰囲気を作る手助けとならぬ限り真の醍醐味は出て来ないものなのである。
その上、モントヤ師匠はアメリカに居て成功した芸術家であるから、アメリカ人の気質を良く知って居り、アメリカ人に歓迎される様な弾き方をして居たが、日本人はもっとフラメンコの生のままに近い演奏をしても、かえってその方が喜ばれるのではないかと感じた。
いたずらにテクニックに走らず余韻のある弾き方をタランタスやセギリージャやグラナディナスの時などして欲しかった。
しかし、彼のテクニックは斯界最高のものである。
記者会見の折とリサイタルの始まる前の楽屋での練習と、近くで手を見つめて居たが、音の流麗さ、アクセントの見事さ(このアクセントに於て我々のリズム感ではついてゆけない) 、強いフラメンコ特有のアポヤンドのあざやかなことなど、見て居て唯驚くばかりであった。
交互弾絃はiとm の2本丈であり、ラスゲアドは殆んど小指を用いず、音はダイナミックでありながら柔かい音である。
三絃にまたがるレガードなど1本の指でかるくとらせ乍ら、柔かに出す様に努力して居り、無理に強く弾かなかのはフラメンコと云えども美しい音を出すベきだとつくづく感じさせられた。
もっとも、楽器が良いのでこう云ったことも無理がなく出来るのではあるが。
ともあれ、モントヤ師匠の芸術はジプシーの伝統たるフラメンコの近代化であり、国際的に普及せしめるに足る、ステージでの演奏ぶりは現実にフラメンコの近代化に成功して居ると云えよう。
或る人々はフラメンコの純枠さを尊ぷかも知れない。しかしそれは、それで良いのであり、このモソトヤ師匠の進み方も一つの方法である。どちらが良いとも云えない、聞く人の主観にまかせるべき問題である。
だがモントヤ師匠の如くステージで、それも大きいステージであれだけの聴衆を魅了する演奏家は、非常に少ないのではないかと思われる。その意味で、彼、モントヤ師匠は立派な芸術家であると云えるだろう。
しかも芸人根性をもった。---芸人根性のない自己満足だけでもって居る芸術家は、何の存在価値もないのである。
トリアニタ夫人も良く踊って居られた、カスタネットはレコードで聞く方がお上手であるが、これは動きが伴うと叩くのがむずかしくなるからで、無理のないことなのである。
ツポを時折はずして居られたが要所のきまりと雰囲気は、モントヤ師匠の夫人だけあると思った。
だがである、余りにも、つまり余りにもモントヤ師匠がうますぎるのである。
終りにモントヤ師匠夫妻の人柄の良さ、素朴さ、見栄や気取りのない自然な態度、これを讃美しておこう。



[*挿画]:digitalguitararchive/1959-06-02-Armonia/P.21-22





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