1932 Guitarre-Kammer-Trio

1932年11月20日 第12回演奏会 於 仙台市西公会堂
ARMONIA ギター室内トリオ : Guitarre-Kammer-Trio



ギター室内トリオ [ 左から ] : 永田 譲(テルツギター)、澤口忠左衛門(バスギター)、石森隆知(プリムギター)

1932-35-36-Armonia/P.24-P.27

トリオ談義  澤口忠左衛門
トリオを初めたものの(これはギタートリオの 事ですが)御多分に洩れず困る事だらけです。
困る事を談話風にと言う所で書いて見ましょう。

第一に楽譜が困る。
然し之は前々から困るだろうと思って用意して居たのでほんとの 困りもの位困らなかった。が厄介な事です。

大体オリヂナルな曲はアルヴィの一曲だけしか出版されてないので、別にトリオの方法の研究書もなし、アルヴィが実地のメソードと云った形。
何故ギター室内楽が盛んだと言うのに曲がないのだろうと御考の人もありましょうが、盛んだと云つてもギター音楽の一つの傾向的になされているので他のシャムバー・ミュージック、例えば絃楽四重奏とか云った様なものに比較はされないのは当然です。
そんな訳で曲が少ない事は其のままギター室内楽の無能とはなりません。

所でアルヴィですが、「チューリンゲン ・ラィゲンは曲としてむしろ平凡な方ですが、さすがにミュンヘナー ・トリオはトリオとして立派に成功したものと思いました。各楽器の使用が実に堂に入っています。
初め楽譜だけの感じでは大したものに思わないのが、楽器を手にして見てその尊さを見出しました。

ミュンヘナー・トリオの演奏したものが.パーロホンに入っておりますが、ベートーベンの例の卜調のメヌエットなど、他の楽器と異った静な、そして柔かな感じですが、ギタートリオとしての物たらなさは如何ともされない気がしました。
然しミュンヘナーがアルヴイの曲の様なテクニックを持つて尚かつ古典味なミヌエットを誇張なして素直にやって居るところなど、あとではかえって良い感じがしました。
こんな風でアルヴィの曲はトリオのテクニックとして開げられました。
トリオの実際上の知識はアルヴイの曲が骨子となった事は争えません。
言うまでもなく移調関係が複雑なのは大変です。
なれるまででしょうが、なるべくシャープとフラットの少ないギター曲ばかり探している様ではトリオのメンバーは望めませんです。と云った形です。


複雑な例としてイ調を演奏するにテルツはフラットを五つ、バスはシャープを五つ要します。
オリヂナルの出版譜がない為に編曲をして見たのです。之は大変に勉強になりました。
曲が中途で移調される時は最初はほんとに大変でした。
楽譜だけの移調なら大したこともないのですが、それがギタリステイクな條件に適はねばならす、トリオとしての性能もあるしです。

こんな次第で当然トリオとしてのやり易い(と云つて変ですが)調があります。
ハ調、卜調、二調、変口調、へ調などでしょう。ハ調はテルツが三つのシャープで仲々痛快です。

その昔ジュリアーニがテルツギターとギター(プリムギターの伴奏付のもの)の曲を書くのに大部分がテルツの三つのシャープ、即ちハ調で書いたのなぞ抜目なく思われます。
楽譜の異なる記号をよく練習する為にソルのエチュードの中から編曲したりしました。
トリオ用の作曲のフィンガリングは専門的な知識が入用な事になります。
然し管楽器などの移調楽譜と同一な考えですから、そんなに恐れる事がないのですが、初めてと言う事が重<懸つております。

次はトリオとしてのテクニックです。
編曲からくる演奏の先のアルヴィの外にアルバートの四重奏曲がありました。
之はテルツ2ツ、プリム、 及、バスの編成です。

チンメルマンからはバスの譜をプリムと同一條件になって出て居ますから注意を要します。
之は当然バスギターに書き換えて奏さるべきです。
アルバートは然しアルヴィよりも無難主義でスコアにして見れば面白いが、重奏として大したものではありませんのです。
ギター室内楽のテク ニックは全然無関係の様うに譜だけを並べております。
尤も彼はストライヒ・クアルテットの様うに作ったとか云つてますから、そんな風なのでしょう。
之はこれで結局参考になった事は否めません。が、トリオとしての性能がはっきり把握されない中に公開せねばならなかった次第です。

次いでバランスです。之もトリオ其の物の組織が悪いのでなく、不慣と最初が患いする事を発見して今更ながら安心しました。
バスはよく響きます。
然し奏者には仲々それがわからなかったのです。
テルツは譜を充分研究の上編曲したのですが、合奏では或ものはかえつて単音の明確な音の方がよい時がありました。
総じて高音部に位するテルツが響かない様うにも感じられました。
然しガットはスチールよりも遠方によく響きを伝えますから、懸念するほどでもないと思っています。

も―つは用絃です。
全部ガットとシルクを用いましたバスは第一絃のイがガットで他の六本はシルクです。
テルツとプリムは3本がガットで 三本がシルクは御存じの通り。
絃問題は既に何度も論じられましたがギター音楽の至上から行きますとガット使用が絶対になる事は自明の理です。

一番困るのはテルツの絃でした。
幾分細目のものが使用されてますが、取寄せたものは全部切つてしまい、プリム用のものを代用しました。
テルツのメンスール(ナットからプリッチまでの長さ)はプリムの第三フレットより、もっと長くなっておりますが所定の張りを得るには相当以上の苦心がいります。
延びることと切れる事、本邦ギタ ー界も多難です。

バスギターはシルクが大部分ですが、シルクもどうかすると音を立てて切れます。
バスギターは楽器として次の点でよく出来てると思いました。
所要のバス音を得るにギターとして把持される條件にかなわせる為、メンスールを可能範囲まで短かくし、用絃の上に太さと張りを一致させた事と音量がよく出来る事です。ですから此の点は或程度まで用絃の不安は薄らいだ具合です。

こんな風に困る事だらけですが、困ることの発見は大きな進歩となります。
此外に音色、コンビネーション、位置などの問題があります。
最初の公開だったので、編曲もトリオの性質を出し切らずにしまいましたが、実践によってとても面白い仕事が出来る様うに考えられます。
レパーリーも編曲にトリオとしての機能を出し得る様うになればもっと立派に効果を上げられる心算です。

ギタ ーを 含む室内楽は吾邦にもっと盛んにされなければならないと思います。そして充分に可能性があります。
今秋の斯界プログラムにギター二重奏が目立つて多いようですが、ギター室内楽への要望が窺がわれます。
又ボッケリーニのクヰンテットなども演奏されたようです。
之等が将来立派な室内楽として存在する事を願つておりです。
進んで管楽器や絃楽器(ヴァイオリン系又はマンドリン系)とのコンピネーションなど実行され度いものです。

私逹のトリオもあらゆる重奏機会をとらえるつもりです。
差し当たりフリュー トとトリオの 結合、ギター とトリオとのコンチュルト、人声とトリオ等。其のための立派な作曲が為される事になれば 喜ばしいのです。仕事はこれから。もつてトリオ談議了り。







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